食道アカラシア(esophageal achalasia)
▼食道アカラシアの概念
アカラシア(achalasia)は弛緩不全の意味ですが、
食道アカラシアはGERDの逆の病態で、
食物が通るときに下部食道括約筋が弛緩しないために食物が飲み込めず、
食道が拡張する疾患です。
ものがつっかえる症状としては、食道癌が鑑別に上がりますが、アカラシアは比較的若年の
女性に多い特徴があります。
原因は、食道の平滑筋に分布しているアウエルバッハ(Auerbach)の神経叢という神経部分の
変性ないし消失です。
アウエルバッハ(Auerbach)の神経叢が消失する疾患として有名なのが、Hirschsprung病です。
こちらは先天的に腸管の神経叢が欠如した疾患で、幼児期より便秘となりますが、
食道アカラシアは後天的に神経叢に異常が生じます。
原因としてはウィルス感染、自己免疫などが考えられています。
▼食道アカラシアの症状
胸のつかえ(嚥下困難)があります。
特に固形物が飲み込みにくくアルコールや温かい飲み物で緩和される傾向があるようです。
飲み込めない場合には嘔吐を呈することがあります。
また、食道での食物の停滞時間が長くなるために食道炎を起こし胸痛を生じたりします。
炎症により痛めつけられた粘膜に癌が発生すると考えられており、
食道アカラシアは食道癌のリスクファクターとなっています(罹患率が有意に高い)。
また、就寝中に咳や涎が出ることがあります。これらが飲み込めないためと考えられます。
▼食道アカラシアの検査
<食道造影検査>
食道下部の狭窄とその上の拡張が見られます。
形態学的には紡錐型、フラスコ型、S状型に分かれます。この順序で進行していくようです。
(95回医師国家試験C10)
<内視鏡検査>
食物が停滞することで炎症所見が見られることがあります。
アカラシアは食道癌と鑑別が必要なので内視鏡検査は重要です。
<食道内圧測定>
下部食道の蠕動波の消失、下部食道括約筋(LES)弛緩の欠如、LES圧の上昇が見られます。
▼食道アカラシアの治療
<薬物療法>
Ca拮抗薬と硝酸薬が使われます。平滑筋の収縮抑制効果のため症状の軽快が見込めます。
最近ではボツリヌス療法も行われます。ボツリヌス毒は美容整形のしわ取りや顔面痙攣などで使われますが、
筋弛緩作用があるので有効ですが定期的な治療を必要とします。
<食道強制拡張術>
薬物療法で軽快しない場合には、食道胃接合部でバルーンを拡張することで強制的に下部食道括約筋を広げる手技を
行います。一度軽快しても再発することがあります。
<外科療法>
外科的に括約筋を切開します(Hellerの手術)。
また、括約筋を切開したのみだと今度は胃食道逆流症(GERD)となるので、
逆流防止のDor法を組み合わせたHeller-Dor法を行うことが多いようです。
また、最近では開胸ではなく腹腔鏡下での手術も行われています。
食事の際のつかえ感は不快なものなので、軽快すると非常に喜ばれる疾患でもあるようです。