急性膵炎
▼急性膵炎の概念
膵臓は蛋白、脂肪、炭水化物を分解する消化酵素を合成し、膵液中に分泌します。
膵臓にはこれらの膵酵素による自己消化を防ぐため、
膵分泌性トリプシンインヒビター(PSTI:pancreatic secretory tripsin inhibitor)や
α1アンチトリプシンがトリプシンの活性を阻止するといった、防御機能が存在します。
何らかの理由でこの防御機構に破綻が生じると膵臓の自己消化が進行し、膵炎が発症します。
膵酵素が血中になだれ込むと、炎症性サイトカインが誘導されるために、SIRS(全身性炎症反応症候群)を引き起こし、
隣接する臓器のみならず遠隔臓器にも影響を与え、場合によっては死に至る重要な疾患です。
原因としては、アルコール(40%)、特発性(25%)、胆道疾患・膵管閉塞(胆石が17%)が多く、
その他に感染症、薬剤、内分泌・代謝疾患(高Ca血症(膵石)、高脂血症など)、医療行為(ERCPなど)、遺伝など
があります。
遺伝性膵炎は常染色体優性遺伝で、患者は通常小児期から急性膵炎に伴う腹痛を繰り返します。
10代前半から消化不良、糖尿病、慢性的な腹痛を生じ、70歳までに40%以上の患者に膵癌が生じます。
Cationic trypsinogen分子のN端から122番目のアミノ酸のArgからHisへの変異や、
29番目のアミノ酸のAsnからIleへの変異によることが知られています。
高脂血症に関連する遺伝子多型も急性膵炎の発症に関連するといわれています。
▼急性膵炎の症状
初発症状として多いのが、上腹部の激しい疼痛です。背部痛、嘔吐などを伴います。
この痛みは前屈により軽減するため、前屈姿勢をとります。
胆石が原因であれば、閉塞性黄疸を呈することが多いです。
皮膚症状として、Cullen徴候(臍周囲の着色)、Grey Turner徴候(左側腹部の着色)が有名です。
症状が進行すれば、麻痺性イレウス、ショック、呼吸困難、意識障害などを呈します。
▼急性膵炎の検査
<血液検査>
膵酵素の上昇がみられ、血中および尿中アミラーゼ値、
リパーゼ、トリプシン、エラスターゼなどが高値を示します。
しかし、これらの膵酵素の値は膵炎の重症度とは相関しません。
<画像検査>
腹部X線写真では麻痺性イレウスがみられ、sentinel loop sign、
colon cut-off signなどがみられます。
急性膵炎で最も重要なのが造影CTで、膵外への炎症の波及、嚢胞や膿瘍などの合併病変の有無などに関しても
多くの情報を得ることができます。
急性膵炎は、次の3項目のうち2項目を満たし、他の疾患を除外できた場合に診断されます(臨床診断基準)。
1.上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
2.血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の異常がある
3.画像で膵臓に急性膵炎に伴う異常がある
厚生労働省重症度スコアによる判定では、
重症度は重症、中等症、軽症の3段階に分かれます。
重症は予後因子Aが1項目以上あるいは予後因子Bが2項目以上、
中等症はBが1項目で、AもBもない場合に軽症になります。
予後因子A
・臨床徴候
ショック、呼吸困難、神経症状、重症感染症、出血傾向
・血液検査成績
B.E.≦-3mEq/L、Ht≦30%、BUN≧40mg/dL
予後因子B
・血液検査成績
Ca≦7.5mg/dL、FBS≧200mg/dL、PaO2≦60mmHg、LDH≧700IU/L、
TP≦6.0g/dL、PT≧15s、血小板≦10000/mm3
・画像診断
CT画像GradeW、X
▼急性膵炎の治療
基本は絶食による膵臓の安静、バイタルの維持と改善、十分な徐痛、合併症の予防が基本になります。
薬物療法としては、蛋白分解酵素阻害薬であるプロテアーゼインヒビターのgabexate mesilate(FOY)が
推奨されています。
急性膵炎の死因は感染に起因したものが多いことから、ガイドラインでは抗生剤の使用が推奨されています。
また、膵炎の重症化に関与するサイトカインを除去するために、血液浄化が行われます。
外科的治療に関してですが、壊死性膵炎に対して、感染が認められた場合に、膵臓および周囲組織をデブリする
膵壊死部摘除術が行われます。
他に、出血、腸管穿孔などの合併症の際にも手術が行われます。