血液型不適合妊娠
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血液型不適合妊娠

▼血液型不適合妊娠の概念

血液型にはABOの他にRhなど何通りもありますが、血液型不適合妊娠は特に Rh式血液型のD抗原で問題となります。

母体がRh−(D抗原陰性)で胎児がRh+(D抗原陽性)の場合、 母体血液中にD抗体があると胎盤を通じて胎児血中へと移行します。
D抗体は胎児の赤血球のD抗原に結合して溶血するために、胎児水腫や新生児溶血性疾患(HDN)となります。

なぜRhが問題になるのでしょうか?それはD抗体はIgGのために胎盤通過性があるためです。
一方で、ABO式血液型における抗A抗体、抗B抗体はIgM分画に属するために胎盤を通過せず、 胎児への影響はさほど大きくなりません。ただまれに重症化することもあるようです。

▼感作

ABO式血液型では食物等の抗原により自然に感作され抗体を作るようですが、 D抗体を産生するにはD抗原に感作される必要があります。
感作の機会としては、輸血、経胎盤出血、分娩、流産などが考えられます。
輸血の頻度は高くないために確率としては分娩時が最も高くなります(5〜10%)。 そのため未感作の場合、分娩後に抗Dヒト免疫グロブリンを投与して感作を防ぎます。

▼血液型不適合妊娠の症状

<免疫性胎児水腫>
胎児に溶血性貧血が生じると高拍出性心不全となり全身に浮腫が生じます。
また、貧血の状態を打破しようと肝臓で造血(髄外造血)が生じます。結果、 肝腫大となりアルブミン合成低下のために低蛋白血症となり腹水等が生じやすくなります。

<新生児溶血性疾患>
溶血が生じても胎児の心機能で代償できた場合(心不全を発症しない場合)に は胎児期には大事には至りません。
しかし、出産後には高ビリルビン血症という問題が生じます(胎児期はビリルビンは胎盤を通過して母体へと送られるため 高ビリルビン血症とならない)。娩出後はビリルビン処理ができない (肝機能も未熟)ために新生児黄疸を来たし(出生直後の黄疸は異常)、核黄疸となることがあります。

▼血液型不適合妊娠の検査

<母体血間接Coombs試験>
母体血の血清中にD抗体があれば、母体血清と正常O型赤血球、抗D抗体を混ぜることで凝集が生じます。

<羊水分析>
儖D450検査とも呼ばれます。胎児に溶血が生じると羊水中のビリルビン様物質が増えるため、羊水穿刺で得た羊水の 吸光度測定により胎児貧血の程度を評価することができます。

<胎児中大脳動脈ドプラ血流計測、胎児心拍数図>
胎児に溶血が生じて貧血となるとると中大脳動脈の最高血流速度が上昇すると報告されています。 これにより胎児貧血が疑われる場合には、胎児採血を行います。
また、胎児心拍数図では胎児貧血の典型例ではsinusoidal patternを認めます。

<胎児採血>
最も信頼性の高い検査ですが出血、感染、徐脈などの合併症があります。

▼血液型不適合妊娠の管理と治療

<スクリーニング>
妊娠時にはABO式、Rh式血液型を調べます。Rh−の場合は夫の血液型も調べます。本症の可能性がある場合には、 母体血の間接Coombs試験で感作の有無を調べます。

<未感作の場合>
妊娠中に感作の可能性があるので、4週ごとに間接Coombs試験を行います。陰性であっても母児間輸血の予防のために 28〜29週に抗Dヒト免疫グロブリンを投与します。そして分娩の際にも感作のリスクが高いので分娩後に再度、抗Dヒト免疫 グロブリンを投与して感作を防ぎます。

<既感作の場合>
2週ごとに間接Coombs試験を行います。抗体価の上昇が見られた場合、羊水検査、胎児中大脳動脈ドプラ血流計測を 行い、必要であれば胎児採血を行います。

<輸血>
胎児の状態が重篤であると判断される場合、娩出可能であれば娩出後に交換輸血または光線療法、娩出不可能であれば 胎児輸血を行います。

娩出後に光線療法を行うか交換輸血を行うかは基本的には出生体重とビリルビン濃度により決めます。
交換輸血では末梢静脈から新生児の血液を抜き取り、新生児と同じABO式血液型でRhマイナスの血液を輸血します。

胎児輸血には胎児血液型が判明していればその血液型でD抗原陰性のもの、判明していなければO型で D抗原陰性の赤血球を用います。