完全大血管転位症
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完全大血管転位症(TGA:Transposition of Great Arteries)

▼TGAの概念

本症例では、大血管である大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から出ている疾患です。
このままでは、右心室→大動脈から全身へ→大静脈→右心房→右心室→大動脈、という流れになるので 生存できません。したがって、何らかの短絡(ASDやVSD、PDAなど)が合併しています。

本症は血行動態により3つに分けられます。T型は心室中隔欠損が無いもの、 U型は心室中隔欠損があるもの、V型は心室中隔欠損と肺動脈狭窄があるものです。

▼TGAの血行動態

<T型>
心室中隔欠損がないので、短絡は心房中隔欠損あるいは卵円孔開存によります。
なお、通常の心房中隔欠損あるいは卵円孔開存では左−右短絡になりますが、本症では 右室から大動脈が出ているために右心系の圧が高くなり、恐らく右房と左房で同程度の圧となって血液が 混ざり合う状況になります。
したがって、心房中隔欠損孔(あるいは卵円孔の開存)が大きいほどチアノーゼは軽症となり、 小さいときには出生直後から重度のチアノーゼを来たします。

また、このタイプでは動脈管開存症を伴うことがありますが、その場合、大動脈→動脈管→肺動脈へと 血液が流れるのでチアノーゼは軽症ですみます。

<U型>
大きな心室中隔欠損があるので、右室と左室で血液が混ざり合いチアノーゼは軽症になります。
ただ、混ざり合った血液が全身へ送られるので全身に送られる血液の酸素飽和度を保とうとすると、 肺血流量は多くならざるをえないので左心系の血液量は多くなり結果として肺うっ血を来たしやすくなるようです。

<V型>
肺動脈狭窄があるので肺血流量は低下してU型よりも高度なチアノーゼとなります。
しかし、肺血流が低下するので肺うっ血や肺高血圧は来たしにくいです。

▼TGAの症状

出生直後からチアノーゼを来たしますが、程度は病型によります。
他に多呼吸や哺乳力低下などが見られます。

▼TGAの検査

<胸部X線写真>
右室から大動脈、左室から肺動脈が出ているために心陰影は心基部が細く心尖部が下方を向いた卵型となります。

<心電図(ECG)>
右軸偏位と右室肥大(右室から大動脈が出ているので右室圧は高くなり圧負荷で肥大)となります。

<心エコー>
右室から大動脈、左室から肺動脈が出ているのがわかります。

<心カテーテル検査>
血液ガス分析では大動脈の酸素濃度の低下が見られます。
また、左室と右室圧は近い値となります。

▼TGAの治療

<内科的治療>
動脈管開存している場合は、それにより肺血流量を保っているので開存維持のためにPGE1を静注します。

<バルーン心房中隔裂開術(BAS)>
T型では心房中隔欠損により生存が保たれており、欠損孔が小さい場合にチアノーゼが強くなります。
そこでバルーン付きカテーテルにより心房中隔欠損孔を拡げます。しかし、最近は行われなくなってきたようです。 <外科治療>
外科的には、T型とU型ではJatene術が行われます。これは、大動脈と肺動脈をそれぞれ入れ替えて、生理的な 状態に戻す手術です。肺動脈が出ている左室は肺は低圧系のために時間が経過すると退縮するので、 T型では生後2週間以内、U型では3ヶ月以内に行います。
V型では肺動脈狭窄を伴っていてJatene手術が適さないので Blalock-Taussig短絡術などで肺血流を増やした後に、 肺動脈の再建をともなうRastelli手術が行われます。