肥大型心筋症(HCM:hyperthrophic cardiomyopathy)
▼肥大型心筋症の概念
心筋肥大により心室の内腔は狭くなり、また、肥大のために拡張障害が生じる疾患です。
原因は、遺伝が考えられていて、サルコメア(筋節)を構成する蛋白の異常により発症することが
明らかとなっているようです。
続発性あるいは後天性という表現でいいと思いますが、
成長ホルモンが過剰分泌される下垂体腫瘍やエピネフリンが過剰分泌される褐色細胞腫などの病気によって
も肥大型心筋症を生じるようです。
肥大した心筋の部位により、HOCM(閉塞性)かHNCM(非閉塞性)になります。
HOCMは、左心室の出口付近の心筋が肥大したため、流出路を閉塞します。
HNCMは、左心室の下部あたりが肥大したため、流出路は閉塞されません。
▼肥大型心筋症の症状
肥大型心筋症では、突然死が問題となります。
若年者でスポーツ中に急死した場合など解剖してみると肥大型心筋症だった、ということがあるようです。
肥大型心筋症では不整脈が生じやすいこと、拡張障害による駆出率の急激な低下などが
原因と考えられています。
また、心室の内腔は狭く、肥大のために拡張障害を呈するために
心臓からの一回拍出量は低下します。脈が速くなることで代償するため、動悸が生じます。
また、肥大した心筋は虚血に陥りやすいため胸痛を訴えるようになります
(左室拡張期圧が上昇するために冠動脈から血流が流れにくくなるため)。
左室流出路狭窄による病態で、大動脈弁狭窄(AS)と類似すると考えていいと思いますが、本疾患では
血管攣縮も生じるようです。
▼肥大型心筋症の聴診所見
拡張型心筋症(DCM)と同様にV、W音が聴こえる場合、奔馬調律(ギャロップ)となります。
HOCMでは左室流出路狭窄のために胸骨左縁下部で収縮期駆出性雑音が聴こえます。
この雑音は静脈還流量低下時や心筋収縮力が強まったとき(βアゴニスト、ジギタリス使用時など)に
顕著となります。
▼肥大型心筋症の検査
<胸部X線写真>
拡張は伴わないために明らかな異常はみられません。
<心電図(ECG)>
左室肥大の所見やST-T変化、巨大陰性T波が見られることがあります。
<心エコー>
・ASH(アッシュ;asymmetric septal hypertrophy;非対称性中隔
肥大):肥大型心筋症では、右心室と左心室の間にある心筋(中隔)が外側の心室の壁に比べて
異常に太くなります。
・SAM(収縮期の僧帽弁前尖の前方運動):HOCMでみられます。
・大動脈弁半分閉鎖:HOCMでは収縮中期に駆出される血液量低下のために大動脈弁が閉じかかる所見を
呈します。したがって、頚動脈波では二峰性脈が見られます。
(97回医師国家試験D20)
<心カテーテル検査>
左室拡張期圧の上昇が見られます。また、
HOCMでは心室内で狭窄部位の前後で圧較差が見られます。
また、通常、期外収縮後には前負荷がまして収縮力も増すために大動脈圧は上昇します。
HOCMでは期外収縮後に収縮力が増すことで閉塞が増強されるために、
大動脈圧が低下してしまいます(Brockenbrough現象)。
<頚動脈波>
HOCMでは収縮中期に駆出される血液量が低下し収縮期の脈波が二つの峰を形成します
(二峰性脈)。
<心筋生検>
錯綜配列が見られます。
▼肥大型心筋症の治療
β遮断薬およびカルシウム拮抗薬を単独あるいは併用で投与します。
静脈還流量低下時や心筋収縮力が強まったときに狭窄は強くなるために、βアゴニストやジギタリスは基本的には
禁忌となります。
薬物療法では症状が改善しなかった場合、
肥厚した心筋の一部を切除する心室筋切除術が行われることもあります。