狭心症
▼狭心症の概念
心臓が働くためには、酸素や栄養素(主には脂肪酸)が必要です。
それらを心筋へ運ぶ血管が冠状動脈です。
冠状動脈には、太い3本の枝(右冠動脈、左冠動脈の前下行枝と回旋枝)があります。
この冠状動脈の血液の流れが悪くなると、
心筋に必要な酸素や栄養がいき渡りにくくなり、心筋は
一時的に血液(酸素、栄養)不足となり
前胸部、時に左腕や背中に痛み、圧迫感を生じます。これが狭心痛です。
狭心症は、あくまで一時的な虚血であり、虚血が改善されると心筋は元に戻り、狭心痛も改善します。
▼労作性狭心症と異型狭心症(安静狭心症)
冠状動脈の血液の流れが悪くなると、狭心痛が生じますが、冠状動脈の血液の流れが悪く
理由は大きく二つに分かれます。
ひとつは、動脈硬化による冠状動脈のプラーク形成(労作性狭心症)で、もうひとつは
冠状動脈の攣縮(れんしゅく)によるもの(異型狭心症)です。
冠状動脈にプラークが形成されると、冠状動脈は細くなり、血流量は低下します。
安静にしているときであれば、心臓が必要としている酸素や栄養は多くないので、血流量が低下していても
事が足りてしまい、
何も症状はでません。
しかし、運動時など、心臓が活発に働いているときには、心筋はより多くの酸素や栄養量を必要とします。
そのときに、プラーク形成した冠状動脈では、必要な血流量を送ることができず、狭心痛を呈します。
運動したときに生じる狭心症なので、労作性狭心症と呼ばれます。
冠状動脈の攣縮は、明け方などに生じます。攣縮により、冠状動脈は非常に細くなってしまい、血流量が
急激に低下し、狭心痛を呈します。明け方は安静にしていることが多いので安静狭心症とも呼ばれます。
異型狭心症という名前は、狭心痛が生じたときの心電図が、労作性狭心症と異なるために、付けられました。
(発作時、労作性狭心症はST低下、異型狭心症はST上昇)
▼安定狭心症と不安定狭心症
安定か不安定かは、症状の起こり方に変化があるかないかの意味になります。
たとえば、常に、階段を5階まで歩くと狭心痛がする、というのであれば、安定狭心症であり、
以前は、階段5階で胸が痛かったが、最近は、2階でも痛くなる、というのであれば、不安定狭心症になります。
不安定狭心症は、心筋梗塞に移行しやすいため非常に注意が必要です。
なお、不安定狭心症と心筋梗塞を急性冠動脈症候群と呼ぶこともあります。
▼狭心症の症状
狭心痛は、胸の痛みを訴えることもあれば、漠然とした不快感として捉えられることもあります。
また、糖尿病患者や高齢者などでは、さほど痛みとして感じないこともあります。
臨床上、注意が必要なのは、左肩や左腕へ放散痛として感じられることや、歯痛として感じることもあるので、
これらの痛みでも、狭心症や心筋梗塞を疑わなければなりません。
(『ナースあおい』というドラマで歯痛があったおばあちゃんが心筋梗塞だった、という話がありました。)
▼狭心症の検査
検査としては、労作性狭心症が疑われた場合、CTで冠動脈を描出する画像検査や
運動負荷試験(心電図、心筋シンチ)が行われます。
最近では運動負荷の変わりにアデノシンやドブタミンなどの薬剤で負荷をかけることも多いです。負荷をかけた後に、
心電図あるいは心筋シンチグラフィーを行います。後者の方が感度は高いとされます。
これらの検査を行った上で、器質的な冠動脈の狭窄が疑われた場合には、冠動脈カテーテル造影検査
を行います。同時に治療を行うこともあります。
異型狭心症が疑われる場合には、ホルター心電図やアセチルコリン負荷冠動脈カテーテル造影検査が行われます。
アセチルコリンでスパズムが誘発されることより異型狭心症は自律神経系の関与が疑われています。
▼狭心症の治療
食事療法や禁煙が重要です。
薬物療法としては、発作時と非発作時(発作の予防)で異なります。
発作時には、労作性狭心症と異型狭心症どちらも、ニトログリセリン舌下錠を用います。
血液不足が改善され痛みがとれます。
非発作時では、労作性狭心症ではβブロッカー、Ca拮抗薬が使われます。
異型狭心症ではCa拮抗薬が第一選択となります。冠状動脈の攣縮を誘発する恐れがあるため
βブロッカーは望ましくありません。
労作性狭心症や不安定狭心症では、細くなった冠動脈を元に戻すために、経皮経管的冠動脈形成術(PTCA)が
行われます。
左冠動脈主幹部病変などでは外科的に冠動脈バイパス術が行われます。
▼第101回医師国家試験B111
経皮的冠動脈形成術の適応でないのはどれか。
a 安定狭心症
b 異型狭心症
c 急性心筋梗塞
d 不安定狭心症
e 無痛性心筋虚血
異型狭心症は冠攣縮が原因で、器質的病変に乏しく、経皮的冠動脈形成術の適応はなく、
カルシウム拮抗薬が第一選択となります。
無痛性心筋虚血は、痛みを伴わない心筋梗塞、不安定狭心症で、糖尿病や高齢者で生じることが
あります。PTCAの適応はあります。
したがって、回答はbです。