劇症肝炎(fulminant hepatitis)
▼劇症肝炎の概念
劇症肝炎は、肝炎ウイルス、薬物、自己免疫性肝炎などが原因で、
広範な肝細胞の壊死が生じ、急速に肝不全に至る予後の悪い疾患です。
原因としては、B型肝炎ウィルスが多くなっていますが、原因不明も多いです。
「初発症状出現から8週以内にプロトロンビン(PT)時間が40%以下に低下し、
昏睡U度以上の肝性脳症を生じる肝炎」と定義されます。
なお、肝性脳症が出現するまでの期間が8〜24週の症例は
遅発性肝不全(LOHF:late onset hepatic failure)
と呼ばれ劇症肝炎の類縁疾患として扱われてます。
プロトロンビン(PT)時間は、肝臓が合成する凝固因子の量により決まり、
凝固因子の半減期なども考慮すると、現在の肝機能をよく反映するとされます。
また、昏睡U度以上ということは最低、羽ばたき振戦は見られる状態といえます。
そして、この期間が10日以内の急性型と
11日以降の亜急性型に分類されます。
亜急性型の方が予後は不良です。
肝性脳症は劇症肝炎における主要な症状ですが、T〜Xに分類されます。
大雑把には、
T度は、睡眠−覚醒リズムの逆転など軽度の障害、
U度は、失見当識(時間などがわからない)、異常行動(お金をまくなど)、
羽ばたき振戦あり、
V度は、興奮状態またはせん妄状態を伴い、もしくは嗜眠状態、
W度は、昏睡(完全な意識の消失)、痛み刺激には反応、
X度は、深昏睡で痛み刺激にも全く反応しない、です。
肝性脳症は肝機能が低下した際に、アンモニアの蓄積や分枝鎖アミノ酸の減少が原因で生じる
と考えられており、急激に肝不全に陥る本症でもみられます。
▼劇症肝炎の症状
急性肝炎と同様に急性期には消化器症状、発熱、全身倦怠感などがみられます。
その後、黄疸と羽ばたき振戦を呈することが多いです。
劇症肝炎はDICを合併して、多臓器不全に陥ることも多いです。
また、感染を伴うこともあり、腎不全、脳浮腫、消化管出血などを併発します。
▼劇症肝炎の検査
<血液検査>
劇症肝炎の定義上、肝性昏睡(U度以上)とプロトロンビン時間40%以下が必須です。
その他、血清トランスアミナーゼなど肝機能を示す検査値に異常が見られます。
劇症肝炎への予知マーカーとしては、HGF(肝細胞増殖因子)が注目さています。
治療に有効とも考えられているようです。
<脳波>
肝性脳症により徐波化します。典型例では三相性波が見られます。
<画像検査>
腹部エコーでは急速に進行する萎縮、肝縁の形態変化、腹水などが確認できます。
腹部CTスキャンでは肝の縮小、壊死部のlow densityが見られます。
▼劇症肝炎の治療
劇症化の恐れがある場合、診断がつく前から、速やかに治療が行われます。
まず行われるのが血漿交換で、肝臓が合成する血漿タンパクを補充することができます。
同時に血液透析を行うことで、アンモニアなどの除去を行います。
炎症による肝細胞の壊死を抑える目的でステロイドのパルス療法、免疫抑制剤が使われます。
予後不良と考えられる場合は生体肝移植を考慮します。
劇症肝炎における肝移植適応のガイドライン(日本肝不全研究会)によれば、
脳症発現時に、年齢が45歳以上、亜急性型、PT時間10%未満、総ビリルビン濃度18.0mg/dl以上、
直接/間接ビリルビン比が0.67以下の5項目のうち2項目以上を満たす場合は肝移植の登録を行うとあります。
予後ですが、劇症肝炎には様々な要因があり、救命率にはばらつきがみられますが、
現在でも不良といわざるをえない状況です。