妊娠高血圧症候群・子癇
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妊娠高血圧症候群・子癇

▼妊娠高血圧症候群のポイント

・かつての妊娠中毒症
・高血圧と蛋白尿により診断(浮腫は項目から外れた)
・病態としては、母児間免疫異常などによる胎盤形成不全があって、胎盤血流が 低下するために、胎盤血流を維持しようとして母体の末梢血管を収縮させるため、と考えられます。
初産婦、年齢が高い場合に多い(高齢初産婦に注意)。
肥満者、糖尿病、脂質異常症、高血圧に合併しやすい。
多胎妊娠でも増える

▼妊娠高血圧症候群の分類

病型分類は妊娠20週後と定義しています。
胎盤異常が本症の原因として考えられているので、胎盤が完成するとされる 20週後と考えるのは妥当性があるように思います。

<病型分類>
・妊娠高血圧(腎症):妊娠20週以降に初めて高血圧(かつ蛋白尿)を発症
・加重型妊娠高血圧腎症:妊娠20週より前に高血圧あるいは蛋白尿があって増悪
子癇

<症候による亜分類>
・軽症:収縮期血圧140〜160mmHg、拡張期血圧90〜110mmHg、蛋白尿が0.3〜2g/日
・重症:収縮期血圧>160mmHg、拡張期血圧<110mmHg以上、蛋白尿2g/日以上

▼妊娠高血圧症候群の症状

・高血圧
胎盤形成不全による胎盤血流不全があるため、胎盤血流を維持しようと胎盤が母体の血管を収縮させる サイトカインなどを産生するために高血圧となると考えられます。

・蛋白尿

・浮腫
高血圧による静水圧の上昇によるとも考えられますが、血管透過性の亢進がベースにあるようです。
蛋白尿による血漿浸透圧の低下も原因として考えられます。
浮腫がひどくなるとIUGRがあっても体重増加は順調にみえたりします。

▼妊娠高血圧症候群の合併症

<IUGR>
胎盤血流不全がある本症では発育不全は必至です。

<常位胎盤早期剥離(早剥)>
胎盤異常がベースにある本症で生じやすくなります。

<HELLP症候群(ヘルプ)>
HELLPはhemolysis(溶血)、 elevated liver enzyme(肝酵素上昇)、 low platelet(血小板低下)の頭文字です。
HELLP症候群の半数は妊娠高血圧症候群を合併しています。
肝臓の虚血によると考えられる腹痛を呈することから肝動脈攣縮、循環血漿量低下による肝血流低下が機序として 考えられます。
HELLPまで至らなくても軽度のトランス、LDHの上昇は割りと高頻度にみられるようです。

<肺水腫>
高血圧による後負荷の増大による心臓の負担増加、浮腫を生じるように血管透過性の亢進、 蛋白尿による血漿浸透圧の低下等により肺水腫を 呈することがあります。

<脳出血>
高血圧の悪化で脳出血を起こす可能性が高くなるといわれています。

▼妊娠高血圧症候群の治療

妊娠高血圧症候群の根治的治療はターミネーション(終了)ですが 妊娠期間の延長により児の予後改善が期待できるため待機的治療を行います。

<安静>
緊張緩和、子宮による下大動脈の圧迫解除により血圧低下が見込めます。

<食事療法>
循環血漿量が低下している本疾患では過剰な食塩の制限は悪影響を及ぼす可能性もあるので、7〜8g/日以下と軽度の 制限とします。
水分に関しては循環血漿量の減少があるため極端な制限は行いません。

<薬物療法>
降圧の目標は収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHg程度とします。
高めに設定されているように思いますが、元々、胎盤への血流障害があって高血圧となっている本症で むやみに血圧を下げることは危険と思われます。特に急激な血圧の低下は胎盤血流を低下させるため避けます。
ACE阻害薬は催奇形性があるので禁忌です。
・ヒドララジン
血管拡張薬です。長期に使用した場合には逆に血圧上昇を来たすことがあり注意が必要です。
・メチルドーパ
中枢性に交感神経を抑制することにより降圧作用を来たします。副作用として 傾眠、抑うつ、肝障害が報告されています。
・硫酸マグネシウム
子癇の治療とともに重症例の子癇発作の予防に用います。降圧効果も期待できますが Ca拮抗薬と併用している場合に急な血圧低下を生じることがあります。
マグネシウム中毒があるのでモニターが望まれます。

降圧剤治療に抵抗する場合や胎児が発育停止、ジストレスを発症したときには妊娠をターミネーションします。

▼子癇

妊娠高血圧症候群によって生じた痙攣発作です。
脳血管攣縮と脳浮腫により生じ、脳出血やてんかんなどとは区別されます。

頭痛などの前駆症状のあとに、強直間代発作が始まります。痙攣発作は一度きりの場合もありますが、 時間をおいて何度も繰り返すことが多いとされます。
発作が起こった場合、バイト・ブロックをすぐに口の中に入れ舌を咬まないようにします。
そして、ジアゼパム(セルシン)を静注し、硫酸マグネシウムの点滴静注を行います。
応急処置が済んだら画像診断を行います。脳出血等を合併することがあるため必要な検査です。
脳浮腫を反映してCTでは低吸収域、MRIではT2で高信号域を呈します。

そして、妊娠のターミネーションが根本的な治療なので、原則的に急速遂娩にもっていきます(胎児心拍数モニターでは 多くの場合、胎児はジストレスの所見を呈する)。