常位胎盤早期剥離(早剥)

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常位胎盤早期剥離(早剥)abruptio placentae

▼常位胎盤早期剥離の概念

常位胎盤早期剥離と長い名称なので、臨床現場では早剥といっています。

胎児が子宮の中にいるにも関わらず、胎盤が子宮から剥がれてしまう病気です。
胎児は胎盤から酸素や栄養分を得ているので、胎盤が剥がれると非常に危険な状態になります。
母体も出血によりショックとなり、また、DICを合併することがあるため危険な状態になります。
したがって、速やかに診断、対処する必要がある救急疾患です。

早剥の1/3は妊娠高血圧症候群を合併しています。妊娠高血圧症候群は 胎盤形成異常によると考えられており、早剥が生じる原因としてイメージできるかと思います。
その他の原因として、絨毛膜羊膜炎(CAM)、交通事故などで腹部に衝撃を受けたとき(103回の 医師国家試験に出題)などがあります。
部分的であれ胎盤が剥がれると出血を来たし血腫(胎盤後血腫)を作ります。この血腫が徐々に大きくなって周囲も 剥離してくると考えられます。

そして、血腫が増大して子宮内圧が上昇すると血腫中の凝固活性化物質が母体の血中に流入するためDICになります。

▼常位胎盤早期剥離の症状

・腹痛
胎盤が剥がれ血腫が増大してくると子宮内圧が上昇するので、子宮収縮が起こり腹痛を呈します。
典型例では、激烈な下腹痛で身体所見では子宮は硬くなり“板状硬”と表現されます。

・出血
胎盤の剥離による出血なので子宮外には出ていきにくいですが、大量の性器出血が見られることも あります。
・子宮底の上昇、子宮の硬直(板状硬)、胎動の減少など

腹痛、出血から、鑑別診断として切迫早産があります。実際、誤診例も多いようです。

▼常位胎盤早期剥離の検査

<超音波検査>
出血直後の胎盤後血腫であれば胎盤よりも高エコーで写ります。時間が経つと胎盤と同程度の エコー輝度となりわかりにくいこともあります。古い血腫では低エコーとなります。

<胎児心拍数陣痛図(CTG)>
胎児は酸欠になり、変動一過性徐脈、遅発一過性徐脈、持続性徐脈などを呈し、 最終的には子宮内胎児死亡となります。
子宮収縮曲線は非定型的な曲線を呈することが多く、 頻繁に繰り返す軽い子宮収縮(さざ波様収縮波)、過強陣痛、 持続時間の長い子宮収縮等がみられます。

<血液検査>
子宮内圧の上昇により血腫中の凝固活性化物質が母体の血中に流入するためDICを発症するため、フィブリノーゲンやAT-V は減少し、D−ダイマーやFDPは増加を示します。
また、DICの診断では赤沈が有用です。 妊婦では凝固能は高まり軽度貧血のためにHtは低下するため赤沈は亢進します。
しかし、DICになると凝固因子が消費されるために赤沈は遅延します。

▼常位胎盤早期剥離の治療

<児が生存している場合>
児が生存している場合、母体のDICの合併はまれで、 出生児の転帰は帝王切開の決定から出産までの時間に最も関連すると言われています。 したがって、できる限りすみやかに帝王切開を行い児を娩出することが重要であると考えられています。
発症から分娩まで長時間が経過している場合には凝固障害の有無に注意が必要です。

<胎児死亡となった場合>
母体がショック、DICを合併している可能性が高いので、 ショック、DICに対する検査、治療を行ってから、帝王切開を行います。
ただし、子宮口が全開大近くで、2〜3時間以内に分娩終了の見込みがあれば、 経腟分娩をめざしてもよいといわれていますが、このあたりは議論のあるところのようです。



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