貧血の鑑別診断を考える際、重要なのが鉄の動態です。
ヘモグロビンは、ヘムとグロビンからなりますが、ヘムに鉄がくっついています(ヘム鉄)。
鉄は、食物から摂取され、十二指腸から血液中へと吸収されます(血清鉄)。
血液中では、鉄は必ずトランスフェリンという蛋白質と結合します。
そして、骨髄へと運ばれ、ヘム鉄となります。
また、体内には貯蔵鉄があります。
貯蔵鉄は、フェリチンとヘモジデリンがありますが、重要なのは、前者です。貯蔵鉄は
肝臓や脾臓に蓄えられます。
骨髄中の鉄が不足すれば、貯蔵鉄が血中へと移行しトランスフェリンと結合して血清鉄となり、
骨髄へと運ばれ利用されます。
血液検査では、血清鉄と血清フェリチン、トランスフェリン(Tf)を測定し、鉄の動態を判定します。
血清鉄はTfと結合しているので、血清鉄=鉄と結合しているTf、
となります。これは飽和鉄結合能ともいえます。
血清フェリチンは貯蔵鉄量を反映するので、代理的に貯蔵鉄の評価とします。
Tfの総量を総鉄結合能(TIBC)、鉄と結合していないTfを不飽和鉄結合能(UIBC)とすると、
TIBC(総Tf)=血清鉄(鉄と結合しているTf)+UIBC(鉄と結合していないTf)
となります。
放射性標識鉄(59Fe)を用いて、鉄の動態を調べます。これをフィロカイネティックスといいます。
重要なのが、血漿鉄消失時間(PIDT)と赤血球鉄利用率(%RCU)
です。
血漿鉄消失時間(PIDT)は、血清鉄となった放射性標識鉄がなくなるまでの時間です。
速やかに貯蔵鉄やヘム鉄となれば、PIDTは短縮し、なかなか貯蔵鉄やヘム鉄とならない場合に
PIDTは延長します。
赤血球鉄利用率(%RCU)は注入した放射性標識鉄の何%が赤血球中に使われたかを示します。
鉄が足りないような状態では100%近くになります。
逆に、鉄があっても使えない状態ならば低値となり、また、溶血する場合も最終的に
赤血球中で使われないのと同じことになり低値となります。
PIDTは短縮するものの、%RCUが低値である場合、無効造血か溶血が考えられます。
無効造血とは、骨髄で血液を造るもののそれが不良品であるため骨髄中で破壊されてしまう状態で、
白血病や巨赤芽球性貧血などで見られます。