胃癌は近年減少している癌ですが、それでも患者は多く、重要な疾患です。
胃癌のリスク因子としては、喫煙や食塩などが考えられています。
ヘリコバクター・ピロリの関与が示唆されていますが、詳細は明らかではありません。
胃癌は最近では、検診による早期発見例が多くなっています。
一方で、比較的若年の女性に見られるスキルス胃癌(Borrmann4型)は
早期発見が難しく予後不良の癌です。組織型は印鑑細胞癌が多いようです。
胃癌の転移様式は、リンパ行性、血行性、播種性(直接浸潤)の3つがあります。
人名がついている有名な転移として、
鎖骨上窩のリンパ節転移であるVirchow(ウィルヒョウ)転移、
腹膜播種(ダグラス窩転移)の
Schnitzler(シュニッツラー)転移、卵巣転移の
Krukenberg(クルッケンベルグ)転移があります。
これらの転移が見られた場合、基本的には手術の適応外で予後は不良です。
胃癌取り扱い規約によると肉眼的分類は以下のようになります。
0型 | 表在型 |
1型 | 腫瘤型 |
2型 | 潰瘍限局型 |
3型 | 腫瘍浸潤型 |
4型 | びまん浸潤型 |
5型 | 分類不能 |
I型 | 隆起型 |
U型 | 表面型 |
Ua型 | 表面隆起型 |
Ub型 | 表面平坦型 |
Uc型 | 表面陥凹型 |
V型 | 陥凹型 |
胃癌でも現在、TNM分類が用いられ、ステージにより治療法が決まります。
T(tumor:腫瘍)
T1:癌の浸潤が粘膜(M)または粘膜下層(SM)にとどまる
T2:癌の浸潤が粘膜下組織を超えているが固有筋層(MP)、漿膜下組織(SS)にとどまる
T3:癌の浸潤が漿膜下組織を超えて漿膜に接している、これを破って遊離腹腔に露出(SE)
T4:癌の浸潤が直接他臓器まで及ぶ(SI)
N(nodule:リンパ節)
N0:リンパ節転移(−)
N1:第1群リンパ節のみに転移
N2:第2群リンパ節まで転移
N3:第3群リンパ節まで転移
M(meta:遠隔転移)
M0:肝転移、腹膜転移および腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移(−)
M1:肝転移、腹膜転移および腹腔細胞診陽性以外の遠隔転移(+)
H0:肝転移(−)
H1:肝転移(+)
P0:腹膜転移(−)
P1:腹膜転移(+)
CY0:腹腔細胞診で癌細胞(−)
CY1:腹腔細胞診で癌細胞(+)
ステージ分類は以下になります。
N0 | N1 | N2 | N3 | |
T1 | TA | TB | U | W |
T2 | TB | U | VA | W |
T3 | U | VA | VB | W |
T4 | VA | VB | W | W |
H1,P1,CY1,M1 | W | W | W | W |
早期ではあまり症状はありません。
癌が大きくなるにつれて、潰瘍を伴うことも多いことから、心窩部痛や胃部膨満感、食欲不振などを呈します。
また、出血により吐血や下血を呈することがあります。そして、持続する出血により
貧血になれば、動悸や息切れなどの症状が出ます。
<上部消化管造影検査>
隆起性病変では陰影欠損、陥凹性病変はバリウム溜まりが見られます。
早期癌では粘膜ひだの集中像で先端の先細り、やせ、虫食い像、棍棒状変化などがみられます。
また、内視鏡よりも有用とされるのがBorrmann4型の検出で、2重造影で胃の伸展性が失われているのが
わかります。
<内視鏡検査>
潰瘍やびらん、発赤、粘膜ひだの性状の不連続等の所見がえられます。
インジゴカルミン色素試験は粘膜の凹凸を強調する目的で使います。
癌が疑われる部分を生検し、病理検査により癌を診断します。
<CT検査>
リンパ節転移や遠隔転移の有無を調べ癌の進展範囲を判断します。
<血液検査>
腫瘍マーカーとしてCEA、CA19-9、CA125、AFPなどがあります。
これらは早期発見にはつながりませんが、癌の再発などで有用となる場合があります。
<その他>
最近、癌ではPET検査の有用性がいわれていますが、胃癌はPETで見つかりにくい癌です。
なお、前立腺癌もPETで見つかりにくいといわれています。
ステージ分類および患者の全身状態などによって治療法が決まります。
早期癌の場合、分化型で2.0cm以下、陥凹型のUL(+)以外ならばEMR(内視鏡による粘膜切除)が適応になります。
ステージWの場合は化学放射線療法が中心になります。
それ以外では手術療法が中心ということになります。
<手術>
手術に関しては、その手術範囲(リンパ節隔清の範囲を含む)と再建方法が問題となります。
・胃の切除範囲
噴門側の腫瘍であれば全摘を行い、幽門側の腫瘍では全摘または幽門側切除が多いです。
噴門側のみ切除することはあまりありませんが、幽門側を残すと残胃からの再発の可能性や潰瘍等が生じるためと思われます。
・リンパ節郭清の範囲
定型手術ではD2郭清までが標準となっています。
癌のできた部位でリンパ流が違うこと、大きさによってリンパ節転移の確率が異なることなどから
郭清範囲の省略に関して様々な報告があります。
進行胃癌の際の傍大動脈周囲リンパ節郭清に関しては、郭清の有無で差がないという
メタアナリシスの結果が出ていますが、噴門近くの癌ではD3まで郭清するべきだという主張も
今もあり、完全な結論は出ていないようです。
・再建法
Billroth I法、Roux-en-Y法などがあります。
<化学療法>
ステージWの場合や再発胃癌では、化学療法が中心になります。
また、胃癌では術前化学療法や術後化学療法の有効性の報告もあります。
現在は、TS-1、タキサン製剤、シスプラチン、CPT-11などが用いられています。
化学療法のみでの根治は難しいですが化学療法による延命、QOLの向上が見込めます。